§紅茶のたび  アイルランド編§
   1999・12・9

 今年の六月、紅茶研修という名目で四日間、アイルランドを旅した。
聖パトリック大聖堂やギネスビール本工場、 ビューリーズ本店などを視察。
十五世紀に建てられたマナーハウス「Dromoland Castle」に宿泊し、 最高のもてなしを体験した。

 さてアイルランドといえば、アイリッシュ・ウイスキーや黒のギネスビールなどのお酒が有名であるが、
実は驚くなかれ、 一人あたりの紅茶消費量たるや堂々の世界一。
単純に年間の消費量を人口で割ると、 日本人は一人あたり二百cを消費するのに対し、
アイルランドは二千五百cと、なんと十倍以上だ。
紅茶研究家として、 実に興味深い。

 ロンドンのヒースロー空港で乗り継ぎ、首都ダブリンについた。
到着は夜八時を過ぎていたが、本場の紅茶を飲もうと、
私と横浜の小林さん(食材卸会社社長)、大分の諫山さん(紅茶専門店経営)の男三人で、
食事のできる場所を探して街に繰り出した。

さすがパブ大国と言われるだけあって店が並んでいたが、
この中から外観上、安全そうな店を探し、 男三人で列をなして店の中に入った。
奥の注文カウンターまで恐る恐る行き、
旅に出る前から心に決めていたフィッシュ・アンド・チップスと紅茶を頼もうと思ったが、メニューは全部英語。
日本のファーストフード店のお姉さんのような笑顔で迎えられれば少しは気が楽であるが、
カウンターにはいかつい男が立って、 せかすような雰囲気で注文を待っている。

何とかカタコトの英語と身ぶりで待望のフィッシュ・アンド・チップスと紅茶を手にし、
男三人、直径六十aほどの小さい丸いテーブルに座り、本場の紅茶を堪能した。もちろんミルクティーで。

ただ、周りはほとんどがギネスビール。それに私たちの座った場所も悪かった。
表通に面したテラス席(それも中二階のVIP席)。
日本人観光客が少なく、ただでさえ目立っているのに、 男三人、ミルクティーを飲んでいる。

この光景の不自然さに気が付いたのは悲しくも食事半ばだった。
私は辺りをキョロキョロと見回し、早く店から脱出しなければという思いが駆けめぐる。
もうフィッシュ・アンド・チップスどころではなかった(なんと小心者か!)。
仲間にも「なんか視線感じない?」 と小さな声で問いかけると、
小林さんも気まずい雰囲気に気が付いたらしく、 引きつった笑顔でうなずいていた。

私たちは一気にミルクティーを飲み干し、一目散に店を出たのである。
アイルランドに着いた途端の気まずい紅茶だった。
 この後の旅行中、絶対に男だけでパブに入るものかと心に決めたのだが、
今になってみると、一番印象に残る紅茶の味だった。


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